グリーン社会への転換やデジタル化への対応、コロナ禍で赤字を被った企業の事業再構築等を促進するための措置を規定した産業競争力強化法の改正をはじめ、中小企業等経営強化法など6つの改正法を束ねた産業競争力強化法等改正法が、参院本会議で可決、成立しました。
改正法の背景として、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、我が国経済は戦後最大の落ち込みを記録、危機に直面しています。他方、古い経済社会システムから脱却し、「新たな日常」への構造変化を図るチャンスであるというものです。
令和3年度税制改正では、産業競争力強化法の改正を前提に、税制優遇措置として、
(1)カーボンニュートラル実現に向けた計画を主務大臣が認定した場合、脱炭素化効果の高い製品の生産設備等の導入に対し最大10%の税額控除又は50%の特別償却を認める設備投資促進税制
(2)デジタル技術を活用した企業変革(DX)実現のため、部門・拠点ごとではない全社レベルのDXの計画を主務大臣が認定した場合、計画により取得するデジタル関連投資に対し最大5%の税額控除又は30%の特別償却を認めるDX投資促進税制
(3)コロナ禍での事業再構築の計画を主務大臣が認定した場合、赤字であってもカーボンニュートラルやDX等に取り組む中堅・大企業に対し、繰越欠損金の控除上限を100%(改正前50%)へ引き上げる特例、が設けられています。
■①「グリーン社会」への転換、②「デジタル化」への対応、③「新たな日常」に向けた事業再構築
1.「グリーン社会」への転換
・「グリーン社会への転換」ための事業者の取組の計画を主務大臣(業所管大臣)が実施指針及び事業分野別実施指針(事業分野別実施指針の策定は任意)に適合していることを確認し、以下の支援を措置。
①カーボンニュートラルに向けた投資促進税制
A)脱炭素化効果が高い製品の生産設備の投資促進
脱炭素化効果が高く、新たな需要の拡大に寄与することが見込まれる製品(化合物パワー半導体、燃料電池、電気自動車等向けリチウムイオン蓄電池、洋上風力発電設備の主要専用部品)の生産に専ら使用される設備の導入に対し、税額控除10%又は特別償却50%を措置。
B)生産工程等の脱炭素化を進める設備の投資促進
事業所等の炭素生産性(付加価値額/エネルギー起源CO2排出量)を向上させる計画に必要となる設備の導入に対し、税額控除最大10%又は特別償却50%を措置。
②金融支援(利子補給等)
着実なCO2削減のための取組を進めるために必要な資金の指定金融機関からの融資について、予め設定したKPIを達成した場合に金利を最大0.2%引き下げる成果連動型の利子補給制度を措置する。併せて、財政投融資を原資として、低利の融資を措置。
2.「デジタル化」への対応
・企業のDXを進める全社レベルの計画を主務大臣(業所管大臣)が実施指針及び事業分野別実施指針(事業分野別実施指針の策定は任意)に適合していることを確認し、以下の支援を措置。
①DX(デジタルトランスフォーメーション)投資促進税制
部門・拠点ごとではないデータ連携・共有を伴う全社的レベルのDXに向けた計画を主務大臣が認定した上で、DXの実現に必要なクラウド技術を活用したデジタル関連投資(ソフト・ハード双方)に対し、税額控除最大5%又は特別償却30%を措置。
②金融支援(財政投融資を原資とした低利融資)
財政投融資を原資とした低利融資を措置。
3.「新たな日常」に向けた事業再構築
・経済社会情勢の変化により事業の成長発展に重大な影響を受けた者(コロナ禍で赤字を被った企業)が「新たな日常」に向けた取組の計画を主務大臣(業所管大臣)が実施指針及び事業分野別実施指針(事業分野別実施指針の策定は任意)に適合していることを確認し、以下の支援を措置。
①コロナ禍において経営改革に取り組む企業向け「繰越欠損金の控除上限」の特例
原則、2020度及び2021度の欠損金を、黒字転換から最長5年間にわたり、現行の50%※から最大100%に控除上限を引き上げる特例を設ける(前年度に実際に行った成長投資の投資金額まで控除上限を拡大)※中小企業は現行でも100%まで控除可能。本制度は中堅・大企業向けの制度。
②金融支援(財政投融資を原資とした低利融資)
財政投融資を原資とした低利融資を措置。
■④中小企業の足腰の強化
- 足下のコロナ対策に全力を尽くすとともに、ポストコロナを見据え、長期視点に立った事業の再構築も必要。中小企業については、経営基盤を強化することで、中堅企業へ成長し、海外で競争できる企業を増やすことが重要。
- そのため、規模拡大を通じた労働生産性の向上を促進するとともに、事業活動に不可欠な基盤の整備の観点から、事業継続力強化や取引適正化を推進し、中小企業の足腰の強化を図る。
- 持続化補助金により、地域を支える小規模事業者の持続的発展を後押し。(19年度補正・20年度補正で5.8万社支援)
1.中堅企業への成長促進【経営強化法、地域未来法、中小機構法】
・中小企業から中堅企業への成長途上にある企業群に、支援施策の対象を拡大。
・規模拡大に資する支援策※については、資本金によらない新たな支援対象類型を創設し、規模拡大パスに位置する企業群を含める。
※計画認定に紐付く金融支援、一定の補助金(コロナ対応の支援策等の対象は変更しない)
2.経営資源集約化の促進【経営強化法、経営承継円滑化法】
・計画の認定を受けて経営資源集約化に取り組む事業者への支援を追加。(税制を措置)
・集約化手続(所在不明株の買取)を5年から1年に短縮。
3.事業継続力の強化【経営強化法】
・中堅企業と中小企業の連携による事業継続力強化を促進。(中堅企業向けにも支援を措置)
・中小企業に対するハザードマップの周知を促進。
4.大企業と中小企業との取引の適正化【下請振興法】
・下請振興法における対象取引類型を拡大。
(例.スポーツジムとフリーランスであるインストラクターとの取引、ホテル運営会社と客室清掃業者との取引 等)
・国による調査の規定を創設。発注書面の交付を促進。
・中小企業の強みを活かした取引機会等を創出する事業者の認定制度を創設。
※生産性特別措置法は廃止し、先端設備等導入計画は経営強化法に移管・恒久化(固定資産税減免は2023年3月31日までの措置)。
■⑤「新たな日常」に向けた事業環境の整備
1.規制改革の推進
①バーチャルオンリー株主総会の実現のための特例
・会社法上、株主総会を招集する場合には「場所」を定めなければならないとされており、バーチャルのみでの株主総会の実施は困難なところ、上場会社が経産大臣及び法務大臣による確認を受けた場合は、バーチャルオンリー株主総会を実施できる特例を設ける
②規制のサンドボックス制度の恒久化
・生産性向上特別措置法が2021年6月に廃止期限を迎えるところ、同法に措置されている規制改革のための実証制度(規制のサンドボックス制度)を産業競争力強化法に移管
③債権譲渡における第三者対抗要件の特例
・民法上、債権譲渡の債務者への通知等については「確定日付のある証書」(内容証明郵便等)でなければ第三者対抗要件を満たさないとされているところ、計画認定を受けた情報システムによる通知等については、第三者対抗要件が具備されているとする特例を設ける
2.ベンチャー企業の成長支援
①ディープテックベンチャーへの民間融資に対する債務保証制度の創設
・量産等を自ら行う大規模研究開発型のベンチャー企業に対し、経産大臣が事業計画を認定した上で、民間金融機関からの融資に対し(独)中小機構の債務保証を行う制度を創設
②国内ファンドによる海外投資拡大のための特例
・国内ファンド(LPS)の海外投資は投資事業有限責任組合法で出資総額の50%未満に制限されているところ、経産大臣がオープンイノベーションに取り組んでいく旨を確認したファンドが実施する投資については、海外規制を除外。あわせて、認定を受けたファンドが金融機関からのつなぎ融資を受ける場合に(独)中小機構の債務保証を行う
3.事業再編の推進
①事前認定不要の株式対価M&Aの株式譲渡益の課税繰延
・会社法上の株式交付制度を用いる場合、認定なしで株式対価M&Aにおける株式譲渡益の課税繰延を措置する(税制のための認定制度を廃止)
②株式対価M&Aにおける株式買取請求の適用除外
・株式対価M&Aを行う場合、当該M&Aに反対する買収会社の株主は買収会社に対しその株式の買取を請求できるところ、「事業再編計画」の認定を受けた株式対価M&Aで一定の要件(買収会社が上場会社であるなど)を満たすものについては買取請求を適用除外とする
4.事業再生の円滑化
①事業再生ADRから簡易再生手続への移行円滑化
・事業再生ADRの実効性を高めるため、①金融機関に事業再生ADRへの参加の努力義務を課すとともに、法的整理への移行を抑止するため、②事業再生ADRで3/5以上の債権者が再生計画に同意した場合にADRの第三者機関が再生計画における債権カットの必要性を確認した時は、事業再生ADRが不調に終わり簡易再生に移行しようとする際に、裁判所が当該再生計画の債権の減額について事業再生ADRで確認されている事実を考慮して簡易再生の開始決定の判断を行う規定を設ける
詳しくは、こちらをご覧ください。
参照ホームページ[経済産業省]
https://www.meti.go.jp/press/2020/02/20210205001/20210205001-1.pdf
この記事へのコメントはありません。